レベルシフト回路とは入力信号と同じ波形で、異なるDC電圧値を出力する回路です。
デジタル領域から入力された低電圧デジタル信号をアナログ領域の電圧に変換したり、
アナログ電圧を動作点調整のために少しシフトさせたりすることができます。
デジタル信号、アナログ信号それぞれについてのレベルシフト回路の構成をまとめました。
目次
デジタル信号のレベルシフト回路
インバータ
高電圧から低電圧への変換はインバータで十分です。
上の例では、1.2V電源下のinverterと言えど3.3Vが入力されるので、
デバイスの絶対最大定格を超えないよう注意する必要があります。
3.3V下のインバータと同じデバイスを1.2Vでも使用すれば大丈夫です。
低電圧から高電圧への変換時にも、もし前段の出力電圧が後段インバータの閾値電圧を超えていれば、同じ構成で使用可能です。
ただし、PVT変動時に閾値電圧を下回ることがないかとか、正常に機能したとしてもリーク電流が問題ないかなどは見ておく必要がありそうです。
通常は次に紹介する構成のレベルシフト回路を使用します。
レベルシフト回路①
低電圧から高電圧への変換時には、通常下図の構成のレベルシフト回路が使われます。
Vin=Hとなると、M3がオンしてM2のゲートが LとなってM2がオンし、
Vout=Hとなります。同時にM1はオフするのでM2のゲートはより強くLとなります。
入力はデジタル信号ですが、回路自体はアナログ回路なので注意深い設計が必要となってきます。
動作原理はこちらに記載しています。
レベルシフト回路②
レベルシフト回路で調べてみると下記の構成について述べてあるサイトが幾つかヒットしたのでこちらでも一応記載しておきます。MOSFETではなくバイポーラだったりしますが原理は同じです。
要は、プルアップ抵抗RとMOSFET抵抗での分圧で出力しているだけです(もうすこし詳しい計算はこちら)。
しかし、この構成を集積回路で使うことはまずありません。なぜなら、MOSFETがoffしているときは高抵抗で電流が流れないのでいいのですが、MOSFETがonのときには$I = \frac{5V}{R}$もの電流が流れてしまうからです(集積回路では数十uAという電流でもバカになりません)。Rを大きくすれば電流は抑えられますが、面積がその分大きくなってしまいます。
ディスクリートでは簡単に実装できるというのが利点なんでしょうか。
趣味工作でも抵抗とトランジスタがあれば実装できてしまいますね。
アナログ信号のレベルシフト
抵抗分圧
単純に抵抗分圧することでもレベルシフト可能です。
注意点としては、
- 抵抗が前段の負荷になるのである程度抵抗値を高くする必要がある。
- 電源グラウンドのノイズに弱い。
- AC信号もDC電圧と同様に分圧されるため利得が下がる。
- 高抵抗で分圧すると帯域も低くなる。
上記の理由からAC信号のレベルシフトには向かないと思います。
IRドロップ
入力信号をIRだけシフトさせます。シフト量は電流値と抵抗値の調整で細かく制御することができます。
抵抗値を大きくすると帯域が落ち、小さいと大きな電流が必要となりトレードオフがあります。
ソースフォロワ
DC電圧をおよそ閾値分だけ下げる/上げることができます。
電圧を下げたい時にはNMOSを、上げたい時にはPMOSを入力に使用します。
利得がほぼ0dBで、帯域を広く作ることができます。
ただし、レベルシフト量はMOSの閾値とOverdrive電圧の和$V_{th} + V_{ov}$で決まり、
このうち$V_ov$は利得にも影響してしまうため、ほとんど自由度はありません。
ソースフォロワの小信号利得は次式で与えられます。
$$A = \frac{g_{m}(r_{o} \parallel R)}{1 + g_{m}(r_{o} \parallel R)}$$
ここで$g_{m}, r_{o}$はM1のトランスコンダクタンスと出力抵抗、$R$は電流源の内部抵抗です。
もし、M1の基板がグラウンドあるいは電源に固定だと、
基板バイアス効果による抵抗$1/g_{mb}$が$r_o$に並列に見えてしまい利得が下がってしまいます。
そのため上図では基板とソースをショートさせています。
ただし、NMOSのp基板をグラウンド以外に接続するにはdeep nwellの中におく(トリプルウェル)必要があります。
Unity Gain Amplifier (UGA)
通常、UGAは左側(M1, M3)と右側(M2, M4)を対称にしますが、
あえて非対称にしてオフセットを持たせることでレベルシフトすることができます。
レベルシフト量はM1とM2のバランスによって決定できます。
ソースフォロワとの比較としては、
- 細かいDC電圧レベルシフト量の調整が可能。
- M1とM2の動作点調整が難しく、結果的に小信号利得が小さくなりがち。
- 大きな入力振幅に対して、各MOSを飽和領域で動作させるのが難しい。
- 位相の周りが早くフィードバックループ内で使うときは安定性に注意。
AC信号に対しては使いどころが難しい感じですが、DC信号のレベルシフトに対しての用途はありそうです。
AC結合
レベルシフトとは言わない気もしますが記載しておきます。
AC結合(AC coupling)は入力のDC成分はカットし、出力側で任意の電圧Vbにバイアスします。
入力から出力への利得はCとRの分圧で得られます。
$$A = \frac{R}{R + \frac{1}{2\pi fC}}$$
この式からも分かるように、低周波で高利得とするには大きなCが必要で、大きな面積が必要になることがあります。
また、バイアス電圧Vbが安定するまでに入力信号が入ってくると、想定外の電圧がVoutに出力されてしまいデバイス破壊などのリスクがあったりするので注意が必要です。
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