小信号について② 小信号等価回路

小信号等価回路とは

前回記載したように、小信号解析では大信号解析で得られたバイアス点近傍での微小変化を考えます。そのため、一度バイアス点が計算されれば小信号解析ではバイアス点計算のための情報は不要です。通常の回路からバイアスを取り除いて小信号解析に必要な部分のみを残した回路を小信号等価回路と言います。

不要な部分が無いので、慣れてくると非常に簡単に利得などの計算ができるようになります。
定電流源・定電圧源、MOSFETについて順に小信号等価回路をみていきます。

定電流源・定電圧源の小信号等価回路

定電流源とは、電流源にかかる電圧がいくら変化しても一定の電流を流し続ける電流源と定義します。
同じように定電圧源は電圧源が流す電流がいくら変化しても一定の電圧を供給し続ける電圧源です。

結論から言うと、それぞれの小信号等価回路は、

  • 定電流源の小信号等価回路・・・抵抗値無限大の抵抗(=開放、open)
  • 定電圧源の小信号等価回路・・・抵抗値ゼロの抵抗(=短絡、short)

となります。

定電流源の場合、下図のように$V_{in}$が変化しても$I_{out}$が変化しないということになります。

定電流源

オームの法則から定電流源の小信号抵抗$R_{on}$を求めると、
\begin{eqnarray}
R_{on}&=&\frac{d(V_{dd}-V_{in})}{dI_{out}} & \\
&=&\frac{dV_{in}}{dI_{out}} & \\
&=&\frac{1}{\frac{dI_{out}}{dV_{in}}} & \\
&=&\frac{1}{0}=\infty
\end{eqnarray}

となり、定電流源の小信号抵抗値は無限大であることがわかります。
小信号等価回路ではバイアス部分は取り除かれるため、定電流源の小信号等価回路は抵抗値無限大の抵抗、すなわち開放すればいいということになります。

同じように定電圧源についても計算してみます。

定電圧源

定電圧源は負荷電流によらず一定の電圧を供給するので、オームの法則から、
\begin{eqnarray}
R_{on}&=&\frac{d(V_{dd}-V_{out})}{dI_{in}} & \\
&=&\frac{dV_{out}}{dI_{in}} & \\
&=&0
\end{eqnarray}

となり抵抗値はゼロとなります。
したがって、定電圧源の小信号等価回路は抵抗値ゼロの抵抗、すなわち短絡です。

MOSFETの小信号等価回路

アナログ回路では飽和領域で設計することが多いので飽和領域におけるMOSFETの小信号等価回路を説明します。

NMOSシンボル

飽和領域でのドレイン電流は、

$$I_D=\frac{1}{2}\mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH}(V_{BS}))^2(1+\lambda V_{DS})$$

となり、ゲート・ソース間電圧$V_{GS}$、ドレイン・ソース間電圧$V_{DS}$、基板・ソース間電圧$V_{BS}$の関数(閾値電圧$V_{TH}$は$V_{BS}$の関数)です。
これらの変化量をバイアス点からの微小変化として扱って1次までで近似すると、

\begin{eqnarray}
I_D&=&I_{D0}+\frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}}\Delta V_{GS}+\frac{\partial I_D}{\partial V_{DS}}\Delta V_{DS}+\frac{\partial I_D}{\partial V_{BS}}\Delta V_{BS} & \\
&=&I_{D0}+g_m \Delta V_{GS}+\frac{1}{r_o}\Delta V_{DS}+g_{mb}\Delta V_{BS}
\end{eqnarray}

ここで$g_m$はトランスコンダクタンス、$r_o$はチャネル長変調効果、$g_{mb}$は基板バイアス効果です。
MOSFETはこれら3種類の小信号電流をドレイン・ソース間に流す電流源として扱うことができます(下図左)。

MOSFETの小信号等価回路。右図はドレイン・ソース間電圧に比例する電流を抵抗で置き換えたもの。

$V_{DS}/r_o$はソース・ドレイン間電圧に比例した電流なので抵抗で置き換えることができ、これが最終的なMOSFETの小信号等価回路です(上図右)。

$g_m$、$r_o$、$g_{mb}$は$I_D$や$V_{GS}$などに依存することに注意してください。
すなわち、上記の小信号等価回路には$g_m$や$r_o$の値としてバイアス点(大信号解析)の情報が暗に含まれています
実際に値を求めておくと、

\begin{eqnarray}
g_m&=&\frac{\partial I_D}{\partial V_{GS}} & \\
&=&\mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH})(1+\lambda V_{DS})
\end{eqnarray}

と、

\begin{eqnarray}
r_o&=&\frac{1}{\frac{\partial I_D}{\partial V_{DS}}} & \\
&=&\frac{1}{\frac{1}{2}\mu C_{ox}\frac{W}{L}(V_{GS}-V_{TH})^2\dot \lambda} & \\
&\simeq&\frac{1}{\lambda I_D}
\end{eqnarray}

となります。

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